フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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 エディット・ピアフ 天に届く声(La voix qui montait jusq'au ciel)



「エディット・ピアフ 天に届く声(La voix qui montait jusq'au ciel)」というDVDを見た。エディット・ピアフ(Edith Piaf)の没後40年を記念して、フランスのテレビ会社が2003年に制作したピアフの伝記をモチーフにしたドキュメンタリー・タッチの映画だ。冒頭に「水に流すわ(Non, Je ne regrette rien)」を歌う舞台上のピアフの映像がアップされ、「群衆(La Foule)」を歌うピアフを映したフィナーレとの間に、十数曲の歌を歌うピアフの映像を流す合間に、ピアフと関わりのあった人々のインタビューやら、ピアフ自身がインタビューに答える様子などを挿みながら、ピアフと言う稀有な歌い手が、一人の人間としてどのような生き方をしたのか、そこに焦点を当てたものだった。

エディット・ピアフの伝記をテーマにした映画は、これまで多く作られてきた。最も新しく作られたのは、マリオン・コティヤールをキャストしたもので、これは筆者も映画館に足を運んで見たことがある。マリオン・コティヤールは、ピアフと生き写しといわれるほど似ているので、ピアフを偲ぶには相応しいものだったし、またピアフの生涯についても、よく描き出していた。それに比べるとこのドキュメンタリー映画は、ピアフの人間としての一面を描き出すことに焦点を当てているので、自づから異なった印象を与える。

ともあれ、死後何十年もの間、こんなにも多くの伝記映画が作られ、そのたびに人々を魅了し続ける。こんなアーティストは、ピアフ以外にいないのではないか。もしあるとして、その可能性を感じさせる者は、ビートルズくらいだろう。

映画に出てくるインタビュイーは数多いが、最も大きな役割を果しているのは、写真家のユーグ・ヴァサルと、詩人のミシェル・リヴゴーシュだ。ヴァサルは晩年のピアフの身近にいた人で、ピアフから、彼女の生い立ちを含めて、個人的なことをいろいろ聞かされたのだという。それによれば、ピアフの生涯の原点は幼い時の苦しい経験だったという。ピアフの少女時代の悲惨な境遇については、上述した伝記映画に描かれているので、くわしくはそれに譲りたいと思うが、この映画の中でヴァサルが強調していたのは、彼女が一年間も患っていて、治る見込みがないと言われていた眼病を、リジューの聖女テレーズに治してもらったということだった。爾来ピアフは、聖女テレーズを心の母として、心の中の彼女に励まされながら、つらい人生を生き続けてきた。だから、ピアフにとって、生きることとは信仰に生きることだった、とヴァサルはいうのだ。

そんなピアフの信仰の深さを、リヴゴーシュは別の角度から証言していた。ピアフはどんな時でも、歌う前に必ず祈りをささげていた。その祈りとは、聖なるキリストの慈愛によって自分は生かされているという感謝の気持ちを表すためのものだった。彼女は、キリストや聖女テレーズに感謝を捧げないでは、歌うことは無論生きることもできなかったというのだ。その彼女の感謝の気持ちを、他の人々に伝えるのが彼女の歌であった。だから、彼女の歌は人々の心を捕まえて離さないのだ。どんな人も、彼女の歌を聞くことによって心を癒された。何故かはわからないが、彼女の歌声は、それを聞いた人の心を揺さぶってやまないというのだ。

こんな具合でこのドキュメンタリー映画は、主にピアフの信仰の深さを取り上げていた。この映画を見れば、キリスト教徒でない筆者のようなものでも、感動しないわけにはいかない。

この映画の中では、ピアフの小さな体のことをインタビュイーの多くが強調していた。実際彼女はフランス女としても小さく、背丈は142センチしかなかったという。舞台の上で他の人物と並んでいるところが何度も写されていたが、それらを見ると、たしかに彼女は小さな子どもを感じさせるように小さい。それは、幼い頃に凄惨な境遇におかれ、ろくろく食べることもできなかったことの結果だとヴァサルは言っていた。

なお、この映画の中で紹介されているピアフの歌は、上記の二曲の外に次の通りである。遠くに連れてって(Emportez moi bien loin d'ici)、バラ色の人生(La vie en rose)、恋は何のため(À quoi ça sert l'amour)、ミロール(Mylord)、愛する権利(Le droit d'aimer)、モン・ディユー(Mon dieu)、白衣(Les blouses blanches)響け太鼓(Roulez tambours)、スール・アンヌ(Sœur Anne)、ムシュー・サン・ピエール(Monsieur Saint-Pierre)





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007-2013
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