フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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  パリ女のバラード 

 
  口のうまい女はいくらもいるさ
  フィレンツェにも ヴェニスにも
  恋の仲人をやらせても
  やりて婆をやらせても
  ロンバルディアにもローマにも
  ジェノヴァや ピエモンテ
  サヴォアの女も舌が廻る
  だがパリ女の舌にはかなわない

  弁舌さわやかなのは
  ナポリ女との評判だ
  めんどりのようにけたたましいのは
  ドイツ女とプロシャの女
  ギリシャ女に エジプトの女
  ハンガリーにしろどこにしろ
  スペインだろうがカステリアだろうが
  パリ女の舌にはかなわない

  ブルターニュやスイスの女も勝ち目はない
  ガスコーニュやトゥールーズの女もそうだ
  パリ女が二人いれば
  誰も口をはさめない
  ロレーヌ イギリス カレーの女
  ヴァランシェンヌのピカルディー女
  こんなに多くの土地があっても
  パリ女の舌にはかなわない

  皇太子殿下よ パリ女のために
  舌の勲章をやってくれ
  たとえイタリア女の評判がよくても
  パリ女の舌にはかなわない

今日、パリジェンヌの話し上手は、世界中の女性の中でもとりわけ洗練されているとの評判であるが、既にフランソア・ヴィヨンの時代からそうであったらしい。ヴィヨンは、そのパリの女たちの舌先の見事さを、半分揶揄混じりで讃える歌を作っている。「遺言の書」第144節の後にある「パリ女のバラード」である。

ヴィヨンよりはいくらか遅れて生まれたとはいえ、ほぼ同時代人といえるフランソア・ラブレーの作品には、広場における人びとの饒舌が生き生きと描かれている。それらは物売りのための口上であったり、人々への切羽詰った訴えであったりした。中性の社会にあっては、人に物事を訴えるには、もっぱら大声で叫ぶというやりかたが、用いられたものだ。

だから、中世の社会にあっては、大声を出すことができ、しかもウィットを交えて人を説得する力が重んじられた。女たちも例外ではなかった。口上手であることは、現代において容貌の良さが女の価値を計る尺度であるのと同じ意味合いにおいて、女の価値を計る尺度であったらしいのである。

ヨーロッパ中に無数にあった広場の中でも、パリの広場はとりわけ有名であったらしい。そこに出入りする人々の叫び声は「パリの叫び」として、ヨーロッパ中に鳴り響いていた。叫びまわる人々の中には無論、女の姿も多かったのである。






Grand Testament : Ballade des femmes de Paris

  Quoy qu'on tient belles langaigieres
  Florentines, Veniciennes,
  Asses pour estre messaigieres,
  Et mesmement les anciennes,
  Mais, soient Lombardes, Roumaines,
  Genevoyses, a mes perilz,
  Pimontoises, Savoysiennes,
  Il n'est bon bec que de Paris.

  De beau parler tiennent chayeres,
  Ce dit on, Neapolitaines,
  Et que bonnes sont cacquetieres
  Allemandes et Pruciennes,
  Soient Grecques, Egipciennes,
  De Hongrie ou d'autres pays,
  Espaignolles ou Castellannes,
  Il n'est bon bec que de Paris.

  Brectes, Souyssez, ne scevent guerres,
  Gasconnes ne Toulousiennes :
  De Petit Pont deux harengieres
  Les concluront, et les Lorraines,
  Angleches et Callaisiennes
  Aige beaucoup de lieux compris ?
  Picardes de Valenciennes,
  Il n'est bon bec que de Paris.

  Prince, aux dames Parisiennes
  De beau parler donnez le pris ;
  Quoy qu'on die d'Italiennes,
  Il n'est bon bec que de Paris.

  

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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007
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