フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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エキゾチックな香り(ボードレール:悪の華)


エキゾチックな香り

  秋の暮れ方 まぶたを閉じて
  あたたかいお前の胸の匂いをかげば
  わたしはそこに幸福な渚の広がるのを見る
  物憂げな太陽のきらめく渚を

  自然はこの怠惰な島に
  奇妙な木と香ばしい果実を与えた
  しなやかで力強い男たち
  率直な目をした女たちをも

  お前の匂いが誘い出したこの島には
  帆船であふれる港がある
  波にたゆたうけだるき船たち

  タマリンドのようなお前の匂いが
  大気を満たし 鼻をつき
  水夫たちの歌声と溶け合うのだ
    

マネ「ジャンヌ・デュヴァル」

「エキゾチックな香り」と題する詩は、ボードレール青春時代の恋人ジャンヌ・デュヴァルを歌ったものだ。ジャンヌはフランス女と黒人との間に生まれた混血児で、きりっとした体つき、端正な顔、よく響く声の持ち主だったとされる。ボードレールはインドへの旅から舞い戻った1842年にこの女性と知り合い、以後1856年までの14年間生活をともにした。

ボードレールは「悪の華」初版(1857年刊)に、ジャンヌを歌った一連の歌を載せた。その締め繰りの場所には「宝石」という題名の詩を載せていたが、官憲による検閲の結果風俗にとって有害と断罪され、再版では削除せざるを得なかった。そのかわりにボードレールはこの詩をあてたのだった。

再版は1861年に出しているが、ボードレールはその少し前、1859年にジャンヌと一時的によりを戻している。この詩はあるいはその時期に書いたものかもしれない。

エキゾチックな香とは、ジャンヌの血の中に漂っているアフリカの匂いをほのめかしたものなのだろう。






Parfum exotique — Charles Baudelaire

  Quand, les deux yeux fermés, en un soir chaud d'automne,
  Je respire l'odeur de ton sein chaleureux,
  Je vois se dérouler des rivages heureux
  Qu'éblouissent les feux d'un soleil monotone;

  Une île paresseuse où la nature donne
  Des arbres singuliers et des fruits savoureux;
  Des hommes dont le corps est mince et vigoureux,
  Et des femmes dont l'oeil par sa franchise étonne.

  Guidé par ton odeur vers de charmants climats,
  Je vois un port rempli de voiles et de mâts
  Encor tout fatigués par la vague marine,

  Pendant que le parfum des verts tamariniers,
  Qui circule dans l'air et m'enfle la narine,
  Se mêle dans mon âme au chant des mariniers.

  

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