フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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猫(ボードレール:悪の華)




  来れ我が猫よ 思い焦がれる胸の上に
  汝の鋭い爪を納め
  余をして汝の瞳に見入らしめよ
  金属とメノウの溶け合った瞳

  汝の滑らかな頭と背を
  我が指が心地よくまさぐるとき
  汝の躯体の震えを感じ
  我が手が快楽にうっとりするとき

  心に浮かぶは女の姿
  あいつの視線も汝の目に似て
  深く冷たく 矢の如くに人を射る

  そして足元から頭に向けて
  微妙な気配と危険な匂いが
  褐色の躯体のまわりに漂っている  
  

ボードレールによるジャンヌのデッサン

ボードレールは希代の猫好きだったようだ。「悪の華」には猫と題する詩が三つも載せられている。彼は猫を、女を愛するのと同じような感情を以ていとおしんでいたようなのだ。そんなボードレールの猫好きぶりを、友人のシャンフルーリが「マリエット嬢の冒険」の中で次のように描いている。

「彼は何にも増して長らく猫を研究してきた。路上の散歩に連れ出したり、カフェに伴っていっては、猫のうずくまる姿勢を観察したり、なでたりしては、その瞳の秘密を明らかにしようと努めたのだった。」

この詩は、ボードレールが猫の瞳を研究した結果、その魅力に触発されて書いたものかもしれない。

なお、ここに歌われた猫はジャンヌの飼っていた猫である。ボードレールはその猫に、ジャンヌの面影を重ねてもいるのである。






Le Chat — Charles Baudelaire

  Viens, mon beau chat, sur mon coeur amoureux;
  Retiens les griffes de ta patte,
  Et laisse-moi plonger dans tes beaux yeux,
  Mêlés de métal et d'agate.

  Lorsque mes doigts caressent à loisir
  Ta tête et ton dos élastique,
  Et que ma main s'enivre du plaisir
  De palper ton corps électrique,

  Je vois ma femme en esprit. Son regard,
  Comme le tien, aimable bête
  Profond et froid, coupe et fend comme un dard,

  Et, des pieds jusques à la tête,
  Un air subtil, un dangereux parfum
  Nagent autour de son corps brun.

  

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