フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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音楽(ボードレール:悪の華)


音楽

  音楽は時に海となって
  余を青ざめた星に運ぶ
  もやに包まれ 大気を吸い込み
  余は彼方へと船出するのだ

  風をはらんだ帆のように
  胸を突き出し 肺を膨らませ
  余は波の背を渡ってゆく
  夜の闇の中を

  体内には難破船の情念が
  いっせいにわななくのを感ずる
  そよ吹く風や目くるめく嵐が

  余を深淵の上に揺らめかす
  海はまた時に凪いで 
  余の絶望を映す鏡となる  
  

ボードレールにとって海とは、あらゆるものを飲み込んで深淵に沈めさるものであるとともに、人を船に乗せて、はるか彼方、時には宇宙の彼方にまで運んでくれるものであった。この詩にはそんな両義的な海への思いが表わされている。

ボードレールはワグナーの音楽を愛していた。彼はワグナーのうちに、この詩で表現したような、海の深淵と雄大さを感じていたのである。






La Musique - Charles Baudelaire

  La musique souvent me prend comme une mer!
  Vers ma pâle étoile,
  Sous un plafond de brume ou dans un vaste éther,
  Je mets à la voile;

  La poitrine en avant et les poumons gonflés
  Comme de la toile
  J'escalade le dos des flots amoncelés
  Que la nuit me voile;

  Je sens vibrer en moi toutes les passions
  D'un vaisseau qui souffre;
  Le bon vent, la tempête et ses convulsions

  Sur l'immense gouffre
  Me bercent. D'autres fois, calme plat, grand miroir
  De mon désespoir!

  

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