フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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陽気な死者(ボードレール:悪の華)


陽気な死者

  カタツムリが這い回る肥沃な土地に
  俺は自分のために深い墓穴を掘ろう
  その中でのびのびと骨を伸ばし
  波にたゆたうサメのように眠ろう

  福音の言葉も公共墓地も沢山だ
  死んで世間の涙を頂戴するより
  むしろ生きながらにしてカラスを呼び寄せ
  我が肉をことごとく食らわせよう

  蛆虫たちよ 目もなく耳もなきものたちよ!
  喜びにつつまれたこの自由な死者をみよ
  活気ある哲学者たちよ 腐肉の息子たちよ

  我が腐った屍の上を遠慮なく歩き回れ
  そしてまだ苦痛があるかと聞いてくれ
  魂なきこの屍 死者の中の死者に!  
  

悪の華には「死」をテーマにした作品群があり、それらは La Mort と題されている。それに対してこの詩は Le Mort であるから、死ではなく死者を歌ったものとわかる。しかもその死者は陽気な死者だというのである。

一読してこの詩が韜晦な内容のものであることが感ぜられる。死は恐るべきものではなく望ましいものであり、死者は進んで蛆虫たちに自分の肉体を捧げている。しかも墓場に仰々しく葬られるよりは、生きながら蛆虫のえさになることを望んでいる。

実はここで描かれた死とは、生の逆説的な表現なのである。生者たちは、自分らが生きながらにして死んでいることに気づいていない。彼らが執着する生とは死に他ならない。これがボードレールの言いたかったことなのである。






Le Mort joyeux — Charles Baudelaire

  Dans une terre grasse et pleine d'escargots
  Je veux creuser moi-même une fosse profonde,
  Où je puisse à loisir étaler mes vieux os
  Et dormir dans l'oubli comme un requin dans l'onde.

  Je hais les testaments et je hais les tombeaux;
  Plutôt que d'implorer une larme du monde,
  Vivant, j'aimerais mieux inviter les corbeaux
  À saigner tous les bouts de ma carcasse immonde.

  Ô vers! noirs compagnons sans oreille et sans yeux,
  Voyez venir à vous un mort libre et joyeux;
  Philosophes viveurs, fils de la pourriture,

  À travers ma ruine allez donc sans remords,
  Et dites-moi s'il est encor quelque torture
  Pour ce vieux corps sans âme et mort parmi les morts!

  

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