フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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破滅(ボードレール:悪の華)


破滅

  絶え間なく余の傍らを動き回る悪魔が
  透明な空気のように余にまとわりつく
  飲みこむや それは余の肺をこがし
  罪深い永遠の欲望で満たす

  余がこよなく美を愛するのを知って
  女の中でも飛び切り美しい姿をとり
  偽善的でもっともらしい言い訳をいいながら
  余の唇にいまわしい媚薬をこすりつけるのだ

  悪魔は神の視線を避けながら
  疲れてあえぐ余を導き
  寂れ果てた倦怠の荒野へと連れてゆく

  そして困惑した余の目の中に
  汚い衣装や開いた傷口
  血なまぐさい破滅の数々を投げ込むのだ  
  

ボードレールがこの詩の中で問題としているのは、人間を蝕む悪徳の中で、もっともたちが悪く、それゆえもっとも人間を破滅させる力を持ちながら、人間にとってもっとも遠ざけがたいもの、すなわち倦怠である。

ボードレールの生涯をもっとも悩ましたものはこの倦怠であった。ボードレールの世界を彩る雰囲気をよく語るものとして憂愁の感情があるが、それもまたボードレールにとっては倦怠に由来していたのだ。

人は何故倦怠にとらわれるのか。ボードレールは、一人一人の心の中に倦怠の悪魔、つまりファウストにとってのメフィストフェレスにあたるようなものが、潜んでいるからなのだといいたいようなのだ。






La Destruction - Charles Baudelaire

  Sans cesse à mes côtés s'agite le Démon;
  II nage autour de moi comme un air impalpable;
  Je l'avale et le sens qui brûle mon poumon
  Et l'emplit d'un désir éternel et coupable.

  Parfois il prend, sachant mon grand amour de l'Art,
  La forme de la plus séduisante des femmes,
  Et, sous de spécieux prétextes de cafard,
  Accoutume ma lèvre à des philtres infâmes.

  II me conduit ainsi, loin du regard de Dieu,
  Haletant et brisé de fatigue, au milieu
  Des plaines de l'Ennui, profondes et désertes,

  Et jette dans mes yeux pleins de confusion
  Des vêtements souillés, des blessures ouvertes,
  Et l'appareil sanglant de la Destruction!

  

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