フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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願わくは Je voudrais bien:ロンサールのソネット 


ロンサールはフランス文学の伝統にソネットを付け加えた詩人である。ロンサールとその一派とされるプレイアード派の詩人たちは、古臭い定型詩を否定して自由なスタイルの詩を重んじたが、唯一ソネットについては尊重した。

ロンサールたちのソネットは、イタリアから輸入したものである。ロンサールはそれにフランス語の特性を盛り込んで、フランスらしいソネットを作り出そうとした。

特徴は三つあげられる。ひとつは、カトランと呼ばれる4行詩を二つ続けた後、三行詩二連ないし六行詩一連の形をとること、ふたつめは、押韻の数を減らして韻律に有機的なつながりを持たせること、三つ目は、一行を十音節で構成すること、である。(十音節は後に十二音節のかたちに変化し、アレクサンドランの形式が確立される)

ロンサールのソネット集として最初のものは、1552年に出された「恋愛集」Les Amours 、カサンドラという女性をめぐる、連作詩篇である。


ロンサール「カサンドラのソネット」より「願わくは」Je voudrais bien(壺齋散人訳)

  願わくは 黄金の雨のように
  黄色い雫となって滴り落ち
  美しいカサンドラの胸を濡らさんことを
  彼女の瞳にしのび行く眠りのように

  願わくは 純白の牛となって
  彼女を我が背に乗せ
  緑なす四月の草原の
  花の中を歩まんことを

  願わくは 恍惚のナルシスとなって
  彼女の化身たる泉の面に
  我が姿を映さしめんことを

  また願わくは この夜が終わることなく
  オーロラの光りあせることなく
  我が眠りの覚めざらんことを


カサンドラ・サルヴィアーティはイタリアの富裕な銀行家の娘で、その美貌と聡明さを評価されてフランス王室に出入りすることを許されていた。皇太子の侍史であったロンサールは一目見て彼女を愛してしまったのだが、そのときの彼女はすでに結婚していた。かくしてカサンドラはペトラルカのラウラと同じように、永遠の女性となったという。

この詩は、直接自分の胸に抱くことのできない女性への切ない望みを歌ったもので、陶淵明の「閑情譜」と趣旨がよく似ている。






Les Amours de Cassandre: XX

  Je voudrais bien richement jaunissant
  En pluie d'or goutte a goutte descendre
  Dans le beau sein de ma belle Cassandre,
  Lors qu'en ses yeux le somme va glissant.

  Je voudrais bien en taureau blanchissant
  Me transformer pour finement la prendre,
  Quand en avril par l'herbe la plus tendre
  Elle va, fleur, mille fleurs ravissant.

  Je voudrais bien alleger ma peine,
  Etre un Narcisse, et elle une fontaine,
  Pour m'y plonger une nuit a sejour ;

  Et voudrais bien que cette nuit encore
  Durat toujours sans que jamais l'Aurore
  Pour m'eveiller ne rallumat le jour.

この詩の押韻の形式は、abba abba ccd eed となっている。英語系のソネットにおいては七種類の押韻が基本であるのに対し、ロンサールの場合には、このように五種類が基本である。



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