フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
HOME本館ブログ東京を描く英文学哲学万葉集漢詩プロフィール掲示板| サイトマップ

 
Nevermore:ヴェルレーヌ・サチュルニアン詩集

 
  追憶が、わたしをどうしようというのだろう
  秋、ツグミが風に吹かれて舞い上がり
  太陽はモノトーンの光を放射する
  北風のために黄ばんでしまった森の木々に

  あの時、私たちは夢見ごこちで歩いていた
  ふたりだけで、髪も思いも風にゆだねて
  すると突然私に向かって眼差しを向け、彼女はいった
  あなたにとって最良の日々とはいつのこと?

  やさしくも豊かな声は、天使のようにさわやかに聞こえた
  わたしは慎ましやかな微笑を彼女に返すと
  その白き手に、心をこめてくちづけした

  手にとった初々しく芳しき花々を差し出すと
  わたしの思いに答えるように、彼女は愛らしき唇から
  ささやくような声を返してくれたのだった、いいわ!
   
   

クールベ「ヴェルレーヌの肖像」

サチュルニアン詩集 Poemes saturniens はポール・ヴェルレーヌの処女詩集である。ヴェルレーヌがこの詩集を出版したとき、彼はまだ21歳の青年だった。いわばヴェルレーヌにとっての青春の歌とも言うべきものだが、詩に流れている雰囲気は、青年のものというよりは、人生の辛酸をなめつくした老人の嘆きを思わせる。

それというのも、この詩集はヴェルレーヌの失恋の痛手から生まれたものだからなのだろう。

ヴェルレーヌの母方の従姉にエリーザという娘がいた。ヴェルレーヌより10歳年上であったが、孤児の境遇をヴェルレーヌの家に引き取られて、ヴェルレーヌとは小さい頃から同じ家に住んだ。彼女はヴェルレーヌをよく可愛がったという。

ヴェルレーヌは、18歳の頃に、エリーザの嫁ぎ先に滞在して休暇を楽しんだことがある。そのときに、ヴェルレーヌはエリーザに対して熱烈な恋愛感情を覚えるにいたった。彼女もその気持ちにある程度こたえたようだが、この愛は実ることはなかった。

その失恋の痛手が、この詩集に収められた多くの詩を書かせる原動力となったようなのである。

ヴェルレーヌの恋の嘆きには、ウェルテルのような純真さが感じられない。それでいて何とも言われぬ艶を感じさせる。若くして老練だったのだ。

ヴェルレーヌの詩作の出発点には、ボードレールの影響が大きく漂っていたようだが、この詩集はすでに、ヴェルレーヌのヴェルレーヌらしさを感じさせている。

Nevermore「もはや二度と」と題されたこの詩は、ヴェルレーヌがエリーザの嫁ぎ先に滞在していたときの、二人の愛のやり取りを回想したものだと思われる。

わざわざ英語を以て題名としたのは、エドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」が念頭にあったからであろう。こんなところに若きヴェルレーヌに及ぼしたボードレールの影響を感じ取れる。






Nevermore Paul Verlaine

  Souvenir, souvenir, que me veux-tu ? L'automne
  Faisait voler la grive a travers l'air atone,
  Et le soleil dardait un rayon monotone
  Sur le bois jaunissant ou la bise detone.

  Nous etions seul a seule et marchions en revant,
  Elle et moi, les cheveux et la pensee au vent.
  Soudain, tournant vers moi son regard emouvant
  " Quel fut ton plus beau jour? " fit sa voix d'or vivant,

  Sa voix douce et sonore, au frais timbre angelique.
  Un sourire discret lui donna la replique,
  Et je baisai sa main blanche, devotement.

  - Ah ! les premieres fleurs, qu'elles sont parfumees !
  Et qu'il bruit avec un murmure charmant
  Le premier oui qui sort de levres bien-aimees !

  

HOMEヴェルレーヌ次へ





                         

作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである