フランス文学と詩の世界
Poesie Francaise traduite vers le Japonais
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センチメンタルな対話 Colloque Sentimentale

 
  ひっそりと凍りついた公園を
  折しも二つの人影が通り過ぎる

  二人の目はうつろ しなびた唇からは
  かすかに交し合う声が聞こえる

  ひっそりと凍りついた公園を
  ふたつの亡霊が語り合う

  ―ねえあなた 覚えてらっしゃる?
  ―何を覚えているというのだね?

―わたしを今でも愛してらっしゃる?
いつもわたしを夢にみます?―いわずもがなだ

  ―ああ あの幸福だった日々
  わたしたちは唇をあわせあったのだわ ―そうだったね

  ―空は青く わたしたちは希望にみちていたわ!
  ―その希望も色あせて 空のかなたに消えてしまった

  かくて二人は麦畑を歩む
  二人に耳を傾けるのは夜のしじまだけ
      

ワトー「語り合い」

ヴェルレーヌは甘ったれた性格で、他人を思いやる心に欠け、どうしようもない類の人間だったようである。いわば重症の性格破綻者だったと思われるのだ。もし詩を書くことがなかったなら、鼻持ちならぬ人間として、世間から排除されてしまっただろう。

ヴェルレーヌが青年として生きた19世紀の半ば以降は、フランスにとっては韻文詩の黄金時代にあたっていた。ロマン派や高踏派の流れがあり、それらを超越するようにボードレールの孤高の営みがあった。

ヴェルレーヌはそれらの詩風を吸収しながら、音楽性に富んだ独自の境地を開拓した。世界中の詩の歴史の中でも、ヴェルレーヌほど音楽的な詩を見ることは少ない。

詩集「艶なる宴」にも、そうした音楽性が強く現れているが、「センチメンタルな対話」と題したこの詩は、音楽性とはまた異なったものを示しているように見える。

男女の間の会話を描いているのだが、そのやりとりはすれ違ったままだ。ヴェルレーヌの詩としては、音楽性への配慮は薄い。すれ違いの苛立ちが、夜のしじまの中で、きしむような音を立てているように聞こえる。

この詩は、他者と心を交わした関係を作ることのできなかった、ヴェルレーヌの嘆きの歌のようである。






Colloque sentimental Paul Verlaine

  Dans le vieux parc solitaire et glace
  Deux formes ont tout a l'heure passe.

  Leurs yeux sont morts et leurs levres sont molles,
  Et l'on entend a peine leurs paroles.

  Dans le vieux parc solitaire et glace
  Deux spectres ont evoque le passe.

  - Te souvient-il de notre extase ancienne?
  - Pourquoi voulez-vous donc qu'il m'en souvienne?

  - Ton coeur bat-il toujours a mon seul nom?
  Toujours vois-tu mon ame en reve? - Non.

  Ah ! les beaux jours de bonheur indicible
  Ou nous joignions nos bouches ! - C'est possible.

  - Qu'il etait bleu, le ciel, et grand, l'espoir !
  - L'espoir a fui, vaincu, vers le ciel noir.

  Tels ils marchaient dans les avoines folles,
  Et la nuit seule entendit leurs paroles.

  

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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2007
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